司祭の言葉 9/3

年間第22主日 マタイ16:21-27

父と子と聖霊のみ名によって。 アーメン。

「わたしについて来たい者は、自分を捨て、自分の十字架を背負って、わたしに従いなさい。」

主イエスは、「わたしについて来たい者は」と、仰います。わたし自身にとって、主について行く、主にお従いさせていただく、そのこと以外に人生の目的はありません。皆さんもそうではないでしょうか。そのわたしに、そして、皆さんに、主イエスは、「自分を捨て、自分の十字架を背負って、わたしに従いなさい」と、仰せです。

しかし、「自分を捨てる」とは、どうすることなのでしょうか。この自分を一体どこに、どのように捨てよと、主イエスは仰せなのでしょうか。わたしは、それは、「主イエスの内」に、わたし自身を捨てさせていただくのだと思います。言い換えれば、主に、このわたしの一切を委ね切る、と言うことです。主に信頼し、自分の負っている重荷も含めた自分自身の一切を、主に委ね切らせていただく、ということです。

実は、主イエスの今日の福音のおことばは、今日になって唐突に語られたものではありません。今日の福音の少し前に、主は次のように仰っておられました。「疲れた者、重荷を負う者は、だれでもわたしのもとに来なさい。休ませてあげよう。わたしは柔和で謙遜な者だから、わたしの軛(くびき)を負い、わたしに学びなさい。そうすれば、あなたがたは安らぎを得られる。わたしの軛は負いやすく、わたしの荷は軽いからである。」(マタイ11:28-30)

軛や重荷、人生のあらゆる苦しみ、すなわちわたしたちの十字架。その中には、自らの罪とその結果もあるでしょうが、人生には病気や事故・災害のように全く理不尽に襲い掛かる苦しみもあります。多くの場合、それはわたしたちが自分で負うしかないと諦めます。しかしそれを主イエスは、わたしたちに「あなたの十字架」とは仰らず、わたしの軛わたしの荷」つまり主ご自身の負われる十字架と仰せです。

神なる主イエスご自身に、本来負われるべき苦しみ、軛や重荷、すなわち十字架などあろうはずはありません。しかし、わたしたちが自分で負うしかないと諦める軛、あるいは重荷を、主はわたしの軛わたしの荷と言い、そのわたしの軛わたしの荷を、「わたし」と一緒に負って欲しいと、わたしたちに仰ってくださるのです。

今日の福音で、主イエスはこのおことばを踏まえて、「自分の十字架を背負って、わたしに従いなさい」と仰せです。本来わたしたちがひとり負うべき十字架、しかし負いきれない十字架を、主はわたしの軛わたしの荷と言い、そのわたしの軛わたしの荷を、主ご自身と共に負って欲しいと、わたしたちに仰ってくださいます。

わたしたちにとって、「自分を捨てる」とは、この主イエスに、神なる主のみこころとみ腕の中に、自分を捨て切る、自分を委ね切ると言うことではないでしょうか。その時、主は、そのわたしたちを、わたしたちの軛、苦しみ、重荷ごと、ご自身の十字架として、わたしたちと共に、わたしたちのために負い抜いてくださいます。

その時わたしたちが一人で負うしかないと諦めていた十字架を、主イエスがすでにご自身の両肩に負ってくださっておられることを、わたしたちはこの身、この両肩に知らされ、わたしの軛は負いやすく、わたしの荷は軽いからである」と言われる主のおことばの真実に、心から感謝させていただくのではないでしょうか。

わたしたちは自らの十字架を負うことなくして真実の人生は無いことを知っています。自らの生死の問題や苦しみや罪を直視せず、自らの十字架を認めず、自らの十字架を負うことを避ける人生は、偽りの人生以外の何ものでもありません。

とは言え、わたしたちは、自分の十字架を自分だけでは負い切れません。自分の十字架を、自分自身で負い切る力が無いのです。だからわたしたちは人生を、否、自らを偽るのです。自分自身の十字架が、自分にとって重すぎるからです。自分の十字架によって、自分が押しつぶされてしまうのです。そこに人生の解決はありません。

主イエスは、そのわたしたちの十字架を、わたしの軛わたしの荷と言われ、それを、ご自身と一緒に負って欲しいと、わたしたちに仰ってくださるのです。主はわたしたちを、わたしたち自身の十字架を主と共に負わせていただく人生へと招いてくださるのです。その時、わたしたちは、嘘偽りの無い人生を生きることができます。そこにこそ、わたしたちの真実の人生があります。もし、主と共に十字架を負わせていただくことがなければ、わたしたちの真実のいのちは、どこにもありません。

主イエスは、わたしたちにわたしの軛は負いやすく、わたしの荷は軽い」と、仰せくださいます。主と共に十字架を負って歩ませていただく時、わたしたち自らの十字架を負う歩みが、主と共に生き、主の恵みを数える人生へと変えられます。

父と子と聖霊のみ名によって。 アーメン。