「ミカエルーあなたにとって、唯一のまことの神は誰ですか」
聖ミカエルの祝日(9月29日)の黙想(ヨハネ1・47~51)
9月29日は大天使聖ミカエル・聖ガブリエル・聖ラファエルの祝日です。かつては、聖ミカエルの祝日とされていました。聖ミカエルの祝日には、わたしには個人的な思い出があります。わたしが長く司祭として奉仕した英国では、学校の一年は、正式には9月29日・聖ミカエルの祝日のミサをもって始められるからです。9月29日から降誕祭・クリスマスまでの学年の最初の学期は、英国では「聖ミカエルの祝日のミサに始まる学期」を意味する “Michael-mas Term”と呼ばれます。
ミカエル。この大天使の名は、元来のヘブライ語では「ミッカーエール」といいますが、まことに不思議な名前です。通常名前を示す名詞ではなく、“疑問文”だからです。日本語に訳せば、「あなたの神は誰ですか」、「あなたが、生涯お仕えさせていただくべき唯一まことの神は誰ですか」と言う意味の疑問文が「名前」なのです。
大天使ミカエルは、まさにその存在そのものがわたしたちに対する神の問いかけなのです。つまり、神から聖ミカエルが遣わされる時、わたしたちは「あなたの神は誰ですか」という神の問いの前に立たしめられるのです。
聖ミカエルの祝日に読まれる福音は、ヨハネによる福音1:47-51です。主イエス・キリストは、ご自身を訪ねたフィリポとナタナエルに次のように仰せでした。
「はっきり言っておく。天が開け、神の天使たちが人の子の上に昇り降りするのを、あなたがたは見ることになる。」(ヨハネ1:51)
「神の天使たち」の首位は、「大天使長ミカエル」(ダニエル12:1)です。そうであれば、わたしたちが、「人の子、すなわち主イエス・キリストの上に、大天使ミカエルが昇り降りするのを見る」時、わたしたちは、主のみ前に、聖ミカエルによって「あなたにとって唯一のまことの神は誰ですか」との問いかけの前に立たしめられるのです。
英国の学校は、大天使聖ミカエルの祝日のミサを以て新しい学年を始めると申しました。オクスフォードのような約1200年前に聖ベネディクト修道会の司祭養成の修道院大学として設立された古い大学の神学生にとって、主イエスのみ前に、「あなたにとって、唯一のまことの神は誰か」という問いかけの前に立つことこそ、修道、すなわち祈りと学びと修練の第一の目的です。それは、神学生である以前に、人が人として生きるために必ず問われざるを得ない「問い」であるはずです。
したがって、これは、英国の学生のみならず、日本のわたしたちにとっても全く同様、むしろ、現代の日本のわたしたちにとってこそ、必ず問われなければならない最も大切な「問い」なのではないでしょうか。わたしたちも、わたしたち自身にとって、わたしたちが生涯お仕えさせていただくべき「唯一のまことの神」がはっきりしなければ、唯一のまことの神ならぬもの、たとえばお金や一時的な権威・権力のような神ならぬものに仕えて、人生を空しく終わってしまうことになりかねないからです。
ところで、極めて象徴的に思われますが、聖ミカエルの祝日に始まる英国の最初の学期は、主イエス・キリストの誕生・クリスマスに終わります。
クリスマスは不思議です。それは、「本来わたしたちが生涯お仕えさせていただくべき唯一のまことの神が、わたしたちに生涯をかけて仕えてくださるために、イエスという名前をもつ人として、小さな村の貧しいおとめマリアさまを母としてお生まれになった」ことを祝います。主イエス・キリストは、十字架の上で、わたしたちにご自身のいのちそのものである、ご自身の御からだと御血を惜しみなく与えてくださることによって、わたしたちへの犠牲と奉仕の生涯を全うされます。
「あなたにとって、生涯お仕えさせていただく神は誰ですか」との大切な問い、人が人として生きるための最も大切なこの「問い」は、わたしたちに、降誕祭・クリスマス、すなわち「ご自身のいのちを捧げてわたしたちに仕えてくださった唯一のまことの神、主イエス・キリストの誕生」をまっ直ぐに指し示しています。
聖ミカエルから大切な「問い」を問われているみなさんお一人おひとりが、みなさんのお心の内に、主イエス・キリストをこそ、「生涯かけてお仕えさせていただく唯一にしてまことの神」として、心からの喜びと感謝をもってお迎えくださいますように。
大天使聖ミカエルの祝日。わたしたちは、聖ミカエルの名の意味するごとく、主のみ前に、「あなたにとって、唯一のまことの神は誰ですか」との問いかけの前に立っています。この問いに、主イエスこそ唯一のまことの神とわたしたちに告白させてくださるのは聖霊のみです。そのために聖霊を求めるわたしたちの切なる祈りを、わたしたちの守護者大天使聖ミカエルは必ずお取り次ぎくださいます。
父と子と聖霊のみ名によって。 アーメン。